怠惰(怠け癖)による先延ばし癖や逃げ癖のカウンセリングで、話し合いの焦点が「課題への取りかかりの困難」となることは多いです。「やらなければいけないのは百も承知なんだけど、どうしても取りかかることができない」というものですね。
このページでは「課題への取りかかりの困難」を改善させるための考え方についてお伝えしていきます。
「課題への取りかかりの困難」は、「課題にとりかかったあと作業に集中できず、うまくその作業を続けることができない」などの「課題への取り組みの継続の困難」とは違い、課題に取りかかることができないので何も始まらないという点でより辛さがあると思います。
まずは取りかからなければ課題の完遂へ向けて歩き出すことができないので、このような状況に陥っておられる方のカウンセリングでは、「課題に取りかかれるようにすること」が当面の目標となります。
そしてその目標達成を妨げる原因を明確にすべく、対話を通じて深く観察していきます。そこではいくつかの気づきが得られるはずです。
課題を目の前にして、課題に取りかかることができない。この状況で人はついつい、「課題に取りかかることができない」という自分の行動にばかり目が向いてしまいがちです。その行動にばかり目を向けていては、その回避行動に対する有効な解決策を見つけることはできません。
課題に取りかかることができないという自分の行動にばかり目を向けてしまうと、「なんとかして課題に取りかかれるようにしなければ」、「課題に取りかかればいいだけなのに、一体私はどうしてしまったのだ」などの思いで頭が一杯になってしまいます。その結果、課題に取りかかることができない原因に目を向けることができないので、「とにかくやるしかない」などと根性論で課題に取りかかれるようにしようとするしかなくなってしまうのです。
課題を目の前にして、課題に取りかかることができない。この問題を解決させるためにまず考えるべきことは、「課題に取りかかることができない原因を明らかにする」ということです。その原因を導き出すために、課題を目の前にしたときの場面をよく振り返ってみることが肝要です。
課題を目の前にしたときに、人はその課題に対してなにかを瞬間的に考えているはずです。例えば「面倒臭い」とか「全然面白くない」とか「この作業量は相当なものだ!」とか、なにかしらその課題に対してネガティブなことを瞬間的に考えているはずです。
そのネガティブな考えは必然的に、その考えに応じたネガティブ感情を生み出します。怠惰が原因であるのなら、それは強い欲求不満(強いフラストレーション)や苦痛感情だったりするでしょう。
次にこのネガティブ感情が何を生み出すかといいますと、そのネガティブな感情に応じた非建設的な行動です。つまり「課題に取りかかれない」という行動ですね。
課題を目の前にして → 面倒臭いと思い → 強い欲求不満を感じ → 課題に取りかかることができない
この一連の流れを見ると「課題に取りかかることができない」は、課題に対する自らの考えが生み出したネガティブ感情から派生する結果にすぎないということがわかると思います。
「課題を目の前にして」と「課題に取りかかることができない」はダイレクトにつながっているわけではありません。よって「課題に取りかかることができない」の行動を改善させるためには、課題への取り組みに対する自らの思考、そしてその自らの思考が生み出したネガティブ感情に着目し、それらをその状況に相応しい適切な思考と感情へと変容させる必要があるのです。
行動は感情が生み出すもの、感情は自らの思考が生み出すもの。つまり「課題に取りかかれない」は自分自身が作り出している行動的結果なのです。
先述の通り、「課題に取りかかることができない」という行動は、感情から派生する結果に過ぎません。そして同じように感情についても、課題に対する自らの思考が生み出す結果に過ぎません。だとすれば、強い欲求不満や苦痛感情をその状況に相応しい適度なネガティブ感情に変容することができれば、「課題に取りかかることができない」という行動は少し違った結果になると思いませんか?面倒臭いとは思いつつも、「どうしても課題に取りかかることができない!」という結果からは脱することができるのかもしれませんね。その状況に相応しい適度なネガティブ感情を持つことができれば、自然とその状況に相応しい適切な行動がとりやすくなるものです。
その状況に相応しい適度なネガティブ感情を持てるようにするためには、まず課題への取り組みに対する自らの思考を、論理的で現実的で実利的な思考に修正する必要があります。そのような思考が持てなければ、適度なネガティブ感情を持つことはできません。よって、適切な行動がとれるようにするためには、まず最初に課題への取り組みに対する自らの思考を修正させる必要があるのです。例えば「面倒くさいものはやりたくない」ではなく、「面倒くさいけどやりましょう」などのように。カウンセリングではこの思考の修正がテーマとなることが圧倒的に多いです。
それでは次に、課題に取り組もうとしたときから課題への取り組みを回避してしまうまでの一連の流れを、ストレス対処の概念を取り入れて少し違った角度から「課題への取りかかりの困難」を考えてみましょう。
※ここで説明するものは、怠惰による取りかかりの困難に関するひとつの仮説に過ぎません
課題に取りかかろうとした
↓
「課題に取り組むのは嫌だ」
という思いと
「課題に取り組まなければならない」
という矛盾した二つの思いが同時に頭に浮かんだ
↓
折り合いをつけられない
↓
強いストレスを感じた
↓
強いストレスに耐え切れず、すぐに解放感を得るために、ストレス対処として課題から目を背けることにした
人は強いストレスを感じると、ストレス対処を行おうとします。それが適切なストレス対処であれば問題にはならないのですが、不適切なストレス対処を行ってしまうと問題が起こります。
上記の例の場合、そのストレス対処が「課題から目を背ける」ことになってしまっています。このストレス対処行動ですと、課題から目を背けたそのときには一時的な解放感によってストレスを解消させることができるかもしれませんが、のちに問題を抱えることになるでしょう。よって、これは不適切なストレス対処行動と言えます。
このような「不適切なストレス対処行動」という概念を取り入れて怠惰による課題への取りかかりの困難のメカニズムを考えることは、その回避行動とストレスの関係を理解することに役に立ちます。
しかし、カウンセリングでストレス対処の効果的な方法について深く話し合うようなことはありません。それよりも課題を目の前にしたその状況において強いストレスを感じないようにするにはどうしたら良いか?あるいは、のちに難しい状況に陥ってしまうのがわかっているにもかかわらず、ストレス対処として「課題から目を背ける」という行動を選んでしまうのはどうしてなのか?などについて話し合うほうが、より建設的な話し合いができるからです。
例えば「自宅は常に自分にとっての快適空間であるべきだ」と信じる人が、不快に感じるような課題を自宅に持ち帰って取り組もうとしても上手くいきません。それは自宅が快適空間でなければならず、自宅は不快な思いをして課題に取り組もうという気持ちになりにくい環境であるからです。
ここでいう環境調整とは、課題に取りかかりやすい環境とはどのようなものかを考え、その環境を可能な範囲内で作り上げることです。この環境調整は怠惰による「課題への取りかかりの困難」に対する主となる解決策とはなりませんが、根本的な原因となる心理的な問題を解決するための補助的手段とはなり得るのです。